診療時間

TOPへTOPへ

ブログ

帯状疱疹による認知症リスクと帯状疱疹ワクチンの予防効果について

ワクチン  / 医師ブログ  / 疾患  / 認知症
サムネイル画像

子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、のちに帯状疱疹だけでなく、認知症のリスクを高める可能性があることをご存知でしょうか?80歳までに3人に1人が発症すると言われる帯状疱疹。実は、そのウイルスが脳血管障害やヘルペスウイルスの再活性化を促し、認知機能の低下につながる可能性が示唆されているのです。

特に、眼の周囲に発症する眼部帯状疱疹は、脳血管への影響が大きく、認知症リスクが約3倍にも高まるとの報告も。

最新の研究データに基づき、帯状疱疹と認知症の気になる関係、そしてその予防策について詳しく解説します。

ご自身やご家族の健康を守るためにも、ぜひご一読ください。

帯状疱疹と認知症の気になる関係

帯状疱疹は、皮膚にピリピリと刺すような痛みと赤い発疹が現れる病気です。多くの方は、子供の頃に水ぼうそうにかかった経験があるのではないでしょうか。実は、この水ぼうそうのウイルスが体の中に潜伏し続け、加齢やストレスなどで免疫力が低下した際に再び活性化することで、帯状疱疹を発症するのです。

近年、この帯状疱疹と認知症との関連性が示唆され、注目を集めています。一体どのような関係があるのでしょうか。今回は、そのメカニズムや最新の研究データなどを交えながら、詳しく解説していきます。

帯状疱疹ワクチンの種類と効果 - 画像 1

帯状疱疹が認知症リスクを高めるメカニズム

帯状疱疹と認知症。一見すると全く関係がないように思えますが、いくつかの研究から、帯状疱疹の発症が認知症のリスクを高める可能性が示唆されています。

そのメカニズムの一つとして考えられるのが、ウイルスによる血管への影響です。帯状疱疹の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスは、血管に炎症を引き起こすことがあります。血管の炎症は、血管壁を傷つけ、動脈硬化を進展させる可能性があります。動脈硬化は、脳の血管にも影響を及ぼし、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害のリスクを高めます。脳血管障害は認知症の大きなリスク要因の一つです。

また、別のメカニズムとして、帯状疱疹ウイルスが単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化を促す可能性も指摘されています。HSV-1は口唇ヘルペスの原因ウイルスですが、実は脳にも潜伏感染していることがあります。通常は活動を休止していますが、免疫力が低下すると再活性化し、脳内で炎症を引き起こす可能性があります。3Dヒト神経細胞モデルを用いた研究では、帯状疱疹ウイルス感染によってHSV-1が再活性化し、アルツハイマー病の特徴的な変化であるアミロイドβやリン酸化タウの蓄積を誘導することが確認されています。これらの物質の蓄積は、神経細胞の機能障害や細胞死を招き、認知機能の低下につながると考えられています。

脳血管障害との関連性

帯状疱疹は、特に脳血管障害のリスクを高める可能性が懸念されています。中でも、眼の周囲に発症する「眼部帯状疱疹」は、そのリスクがさらに高まるとの報告もあります。台湾の研究では、眼部帯状疱疹を発症した人は、発症していない人に比べて認知症のリスクが約3倍高くなるという結果が得られています。

これは、眼の周りの血管は脳の血管と非常に近い位置にあるため、眼部帯状疱疹による炎症が脳の血管に波及しやすく、脳血管障害のリスクを高めると考えられています。

HSV-1再活性化との関連性

最近の研究では、帯状疱疹ウイルス感染が脳内に潜伏しているHSV-1の再活性化を誘発する可能性が示唆されています。HSV-1は通常、症状を引き起こすことなく脳内に潜伏していますが、免疫力が低下すると再活性化する可能性があります。

韓国の国民健康保険データを用いた大規模研究では、帯状疱疹だけでなく、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染も認知症のリスク上昇と関連していることが明らかになりました。特に、両方のウイルスに感染した人では、認知症のリスクがさらに高くなることが示されています。平均発症までの期間も、両方のウイルスに感染した群が最も短く、約4年でした。

最新の研究データと今後の展望

帯状疱疹と認知症の関連性については、現在も世界中で研究が続けられています。大規模な疫学調査の中には、帯状疱疹の発症と認知症リスクの上昇に関連性が認められたという報告がある一方で、関連性が認められなかったという報告も存在します。

デンマークで行われた大規模なコホート研究では、帯状疱疹と認知症リスクの間に有意な関連は見られませんでした。しかし、中枢神経系の合併症を伴う稀なケースでは、認知症リスクが約2倍に上昇することが示されています。

このように、研究結果にはばらつきがありますが、帯状疱疹ウイルスが認知症の発症や進行に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できません。今後の研究では、帯状疱疹ウイルスがどのように認知症に関与しているのか、より詳細なメカニズムの解明が期待されています。また、帯状疱疹ワクチン接種による認知症予防効果についても、さらなる研究が必要です。これらの研究成果は、認知症の予防や治療法の開発に大きく貢献するものと期待されます。

帯状疱疹ワクチンの種類と効果

帯状疱疹は、体の片側にピリピリとした痛みや水ぶくれを伴う、つらい病気です。50歳を過ぎると発症リスクが急激に上昇し、80歳までに3人に1人が経験すると言われています。後遺症として神経痛が残ることもあり、生活の質を大きく低下させてしまう可能性もある病気です。帯状疱疹は、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが原因で起こります。水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体の中に潜伏し続け、免疫力が低下した時に再び活性化し、帯状疱疹として発症するのです。ワクチン接種によって発症や後遺症のリスクを減らすことができるため、予防について考えていきましょう。いくつかの研究では、帯状疱疹ワクチン接種によって認知症リスクの低減も期待できる可能性が示唆されています。

セクション - 画像 1

帯状疱疹ワクチンの種類:シングリックスとビケン

帯状疱疹ワクチンには、現在日本では「シングリックス」と「ビケン」の2種類が承認されています。それぞれ特徴が異なるため、ご自身の状況に合わせて医師と相談しながら最適なワクチンを選択することが重要です。

シングリックスの特徴と効果

シングリックスは、帯状疱疹ウイルスの一部である糖たんぱく質を使った「サブユニットワクチン」です。ウイルスを弱毒化したり不活化したりするのではなく、ウイルスの構成成分の一部である糖タンパク質だけを取り出して使うため、安全性が高いのが特徴です。

シングリックスの有効性について、大規模臨床試験の結果から見ていきましょう。50歳以上の方では97%、70歳以上の方でも約90%の高い発症予防効果が確認されています。帯状疱疹後神経痛の予防効果も高く、約88%と報告されています。効果の持続期間は9年以上と長く、2ヶ月間隔で2回の接種が必要です。

また、アメリカの研究では、シングリックス接種によって6年後の認知症発症が他のワクチン接種者と比較して17%遅延し、平均で164日遅れたという結果が報告されています。この研究は、シングリックス接種が認知症の発症リスクを抑制する可能性を示唆するものであり、今後の研究の進展が期待されます。

ビケンの特徴と効果

ビケンは、弱毒化した生きた帯状疱疹ウイルスを使った「乾燥弱毒生ワクチン」です。水ぼうそうの予防接種と同じように、体内でウイルスに対する免疫を獲得させます。発症予防効果は約50%、帯状疱疹後神経痛の発症を約3分の1に抑える効果があるとされています。効果の持続期間は5年程度で、接種は1回です。

費用の負担を軽く抑えたい方、副反応が心配な方などはビケンを選択肢として検討できます。

それぞれのワクチンの違い

シングリックスとビケンは、効果の持続期間や予防効果、副反応、接種回数、費用などに違いがあります。

ワクチン 種類 効果 持続期間 接種回数 費用(目安) 副反応
シングリックス サブユニットワクチン

発症予防効果90~97%

後神経痛予防約88%

9年以上

2回

(2ヶ月間隔)

約24,200円(1回分) 注射部位の痛み、腫れ、発熱、胃腸症状、頭痛など
ビケン

乾燥弱毒

生ワクチン

発症予防効果約50%

後神経痛予防約3分の1

5年程度 1回 約8,400円 注射部位の痛み、腫れなど

接種費用と接種場所

シングリックスは2回接種が必要で、1回あたり約10,800円、合計で約21,600円かかります。ビケンは約8,400円で1回の接種です。接種は医療機関で受けられます。自治体によっては補助金制度がある場合もあるので、お住まいの自治体にお問い合わせください。

接種対象年齢と接種スケジュール

シングリックスとビケンともに、接種対象年齢は50歳以上です。シングリックスは2ヶ月間隔で2回接種、ビケンは1回接種です。

副反応について

シングリックスでは、注射部位の痛みや腫れ、発熱、胃腸症状、頭痛などが報告されています。ビケンでは、注射部位の痛みや腫れなどが報告されています。いずれも通常は数日で治まりますが、症状が重い場合や長引く場合は医療機関を受診しましょう。

認知症を予防するための対策

認知症は、誰にとっても大きな不安を抱える病気です。記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたすだけでなく、社会生活や人間関係にも影響を及ぼします。しかし、認知症は早期発見・早期治療によって進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることが可能です。また、予防できる可能性も示唆されています。今回は、認知症予防のために私たちができる対策について、わかりやすく解説します。

セクション - 画像 1

帯状疱疹ワクチンの効果的な活用法

帯状疱疹は、ピリピリと刺すような痛みと赤い発疹が体の片側に現れる病気です。子供の頃に水ぼうそうにかかったことがある方は、そのウイルスが体内に潜伏し、加齢やストレスなどで免疫力が低下した際に再び活性化することで帯状疱疹を発症する可能性があります。

近年、この帯状疱疹と認知症との関連性が示唆され、注目を集めています。いくつかの研究では、帯状疱疹ワクチンの接種が認知症リスクの低減につながる可能性が報告されています。例えば、英国のバイオバンク研究では、帯状疱疹ワクチン接種によって認知症リスクが約28%減少したことが示されました。特に、女性と高齢者で効果が顕著だったという結果が出ています。また、アメリカの研究でも同様の結果が得られており、ワクチン接種によって認知症の発症が平均で164日遅延したという報告もあります。

帯状疱疹ワクチンには、シングリックスとビケンの2種類があります。シングリックスは2回の接種が必要ですが、90%以上の高い発症予防効果と長期の持続効果が期待できます。ビケンは1回接種で済みますが、予防効果はシングリックスよりやや低い傾向にあります。どちらのワクチンを選択するかは、年齢や健康状態、費用などを考慮し、医師と相談しながら決めることが重要です。

帯状疱疹以外の認知症予防策

認知症予防には、帯状疱疹ワクチン接種以外にも様々な対策があります。複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられており、多角的なアプローチが重要です。

生活習慣の改善

健康的な生活習慣を維持することは、認知症予防において非常に重要です。バランスの良い食事、適度な運動、質の高い睡眠を心がけましょう。栄養バランスの取れた食事は、脳の健康維持に欠かせません。適度な運動は、脳の血流を改善し、認知機能の維持に役立ちます。十分な睡眠は、脳の休息と修復を促し、認知機能の低下を防ぎます。

定期的な健康診断の重要性

定期的な健康診断は、認知症の早期発見・早期治療のために不可欠です。健康診断では、認知症の危険因子となる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の有無を確認できます。また、認知機能検査を受けることで、認知症の兆候を早期に発見できる可能性があります。早期発見は、治療の効果を高め、進行を遅らせる上で非常に重要です。

認知症の早期発見・早期治療の重要性

認知症は、早期に発見し適切な治療を開始することで、症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することができます。もの忘れがひどくなった、判断力が低下した、新しいことが覚えられないなど、認知症が疑われる症状に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。認知症は早期発見・早期治療が重要です。

 

まとめ

帯状疱疹と認知症の関係、そして予防策について解説しました。帯状疱疹は、加齢やストレスで免疫力が低下した時に発症しやすく、認知症リスクを高める可能性があることが示唆されています。いくつかの研究では、帯状疱疹ウイルスが血管や脳に影響を及ぼし、認知機能の低下につながるメカニズムが考えられています。

帯状疱疹ワクチンは、発症や後遺症の予防だけでなく、認知症リスクの低減にも効果が期待されています。「シングリックス」と「ビケン」の2種類があり、それぞれ特徴が異なるため、医師と相談の上、自分に合ったワクチンを選びましょう。

認知症予防には、ワクチン接種以外にも、バランスの良い食事、適度な運動、質の高い睡眠などの生活習慣の改善、そして定期的な健康診断も重要です。認知機能の低下が気になる場合は、早めに医療機関を受診し、適切なケアを受けるようにしましょう。健康的な生活習慣を心がけ、認知症を予防し、健やかな毎日を送りましょう。

参考文献

1. Shin E, Chi SA, Chung TY, Kim HJ, Kim K, Lim DH, et al. The associations of herpes simplex virus and varicella zoster virus infection with dementia: a nationwide retrospective cohort study. Alzheimers Res Ther. 2024;16:57.

 

2. Tsai MC, Cheng WL, Sheu JJ, Huang CC, Shia BC, Kao LT, et al. Increased risk of dementia following herpes zoster ophthalmicus. PLoS One. 2017;12(11):e0188490.

 

3. Schmidt SAJ, Veres K, Sørensen HT, Obel N, Henderson VW. Incident herpes zoster and risk of dementia: a population-based Danish cohort study. Neurology. 2022;99(7):e660-e668.

4. Scherrer JF, Salas J, Wiemken TL, Hoft DF, Jacobs C, Morley JE, et al. Impact of herpes zoster vaccination on incident dementia: a retrospective study in two patient cohorts. PLoS One. 2021;16(11):e0257405.

5. Lophatananon A, Mekli K, Cant R, Burns A, Dobson C, Itzhaki R, et al. Shingles, Zostavax vaccination and risk of developing dementia: a nested case-control study—results from the UK Biobank cohort. BMJ Open. 2021;11(10):e045871.

6. Eyting M, Xie M, Michalik F, Heß S, Chung S, Geldsetzer P, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025;641(8062):438-446.

7. Taquet M, Dercon Q, Todd JA, Harrison PJ, et al. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nat Med. 2024;30:2777-2781.

8. Shah S, Dahal K, Thapa S, Subedi P, Paudel BS, Chand S, et al. Herpes zoster vaccination and the risk of dementia: a systematic review and meta-analysis. Brain Behav. 2024;14(2):e3415.

9. Nagel MA, Bubak AN. Varicella zoster virus vasculopathy. J Infect Dis. 2018;218(Suppl 2):S107-S112.

10. Cairns DM, Itzhaki RF, Kaplan DL. Potential involvement of varicella zoster virus in Alzheimer’s disease via reactivation of quiescent herpes simplex virus type 1. J Alzheimers Dis. 2022;88(3):1189-1200.

 

 

市川メディカルクリニック 市川メディカルクリニック